衝撃と畏怖には至らず

現状

• 米連邦準備制度理事会（FRB）は、金曜に市場が反発した後の日曜の夜に何か通常と異なることをすれば市場の安心材料になるのではと考え、市場に衝撃と畏怖をもたらそうと試みた。
• もちろん、市場はそうは受け取らなかった。
• 安心材料となるどころか、FRBは市場が知らない何かを知っていて、しかも状況は思ったより悪いのではないかと、市場は疑心暗鬼に陥ったようだ。
• 金融政策の目的はパンデミックに対処することではない。金融市場がその機能を継続できるように十分な流動性を供給することであり、その点ではFRBはよい仕事をしている。
• FRBにはまだ切っていないカードが数多くある。そのうち最も重要なカードは連邦準備法セクション13(3)に基づく権限であろう。
• セクション13(3)の第1フェーズの発動には財務省の承認が必要とされる。それに続く第2フェーズでは、連邦議会による法案の可決だけで不良資産救済プログラム（TARP）やターム物資産担保証券貸出制度（TALF）のようなプログラムの設立が認められる。
• 10年から15年前とは米国経済の規模が異なることから、連邦議会は2兆ドルのTARP型プログラムを承認することが望ましいと思われる。
• それを受けて、FRBはTALF型プログラムを再度設定することが可能となる。
• 要するに、間近に迫る問題の解決には大きな権限を行使することが必要であり、それができなければ株価の下落が続くであろう。

経済見通し

• 目先の米国経済はゼロ成長まで減速し、既に世界的な景気後退が始まっていると考える。
• 中国の第1四半期GDP成長率は、コロナウイルスによる実体経済への影響を真に反映した数字とはならないであろう。弊社の推定では中国経済は現在年率15％を超えるスピードで縮小しており、市場にはマイナス40％と推定する専門家もいる。
• 欧州も現在既にかなり深刻な景気後退に陥っている。
• 米国はまだ景気後退入りはしていないかもしれないが、そうなるのは時間の問題である。
• レストランや学校が閉鎖され大規模なイベントが中止される中で、多くの人々が給料を受け取ることができなくなる。貯金は恐らく500ドルもない人たちなので、翌月の家賃や車のローン、生活費が支払えなくなる。こうして、事態はさらに悪化していく。
• 我々は今、世界的な不況へ向かう下方スパイラルに陥るリスクに1930年代以降初めて直面している。
• その確率は、政府・議会が迅速に対処しない場合、少なくとも10％から20％と考える。
• 全ては、ワシントンがどのような政策を打ち出すかにかかっている。金融危機の際に業績不振に苦しむ複数の業界を同時に支援するために使われたTARPやTALFのようなプログラムが今どうしても必要だ。連邦議会が一度に対処できるのは一つの業界のみ（例えば現在航空業界に検討されている500億ドルの救済策）という考え方は間違っている。
• 経済の減速が続く中で危機の連鎖が多くの産業へと波及し、次から次へと問題が発生するであろう。
• 連邦議会は現在コロナウイルスに対する緊急支出を定める「ファミリー・ファースト・コロナウイルス対処法（the Families First Coronavirus Response Act）」を審議中であるが、時間がかかりすぎている。存続可能だが現在深刻な業績不振に陥っている企業を救済するために利用可能な資金プールが今すぐ必要だ。
• そしてもう一つ、政府にとってTARPの収支は黒字であったことを思い起こしてほしい。救済策という考え方は捨てるべきだ。米国政府はTARPを使ってディストレスト投資家になると同時に、経済と労働者の生き残りを支援するのだ。
• これは世界的な不況につながるシナリオである。政府・議会がこうしたプログラムを迅速に導入することができなければ、深く暗いスパイラルに陥るリスクがより一層高まることになる。

市場動向

• 全面的なパニック状態にはまだ陥っていない。
• バリュエーションの観点から見ると、ハイイールド債や投資適格社債が米国債より割安であった期間は全体の15％だけであった。しかしバリュエーションは市場のタイミングを計るには不適切なツールである。セリングクライマックス（投げ売り）的な売りはまだ出ていない。選択的なリスクオンが賢明なアプローチであろう。
• 弊社は、投資家がクレジットリスクを取ることにより得られるはずのリターンをまだ得ていないという考えに基づく強固な投資規律を維持している。
• 弊社は、持ち前のプルーデンスによって投資機会を有効に活用し、現在および将来にわたり力強いバリューを顧客に提供することができると考える。
• 私は特に株式市場を懸念している。最悪のシナリオでは金融危機以前の水準まで戻す可能性がある。その場合、S&P500指数は1,600台まで下げる。必ずそうなると言っているわけではないが、株を買い増すには躊躇を覚える。
• 金利が急上昇した新興国市場も警戒したい。バタフライ効果により次に倒れるドミノは新興国市場かもしれない。

投資家へのアドバイス

• この段階でリスクを削減し、底値を見極めてから再びリスクオンに転じるといった戦術を取るのは賢明ではない。売るタイミングは既に逸している。
• 投資家は往々にして長期的な視点を堅持する代わりにパニックに陥って小細工的な取引をしがちである。リスクアセット売却の機会は既に過ぎ去った。

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