絶好調のその先は?

デルタ変異株がもたらすリスク資産への脅威

2021年7月30日    |    グローバルCIO スコット・マイナード


なぜグッゲンハイムの見解はコンセンサスから外れ、時としてクレイジーとも思えるものが多いのかと尋ねられることがある。そうしたとき私は、それは弊社のプロセスが意見ではなくデータに基づいているからだと答えることにしている。意見というものは、感情や、他人の意見に合わせようと働く圧力に影響されやすい。またコンセンサスとは、多くの場合、皆と一緒の居心地の良い場であり、合意を得られることによる快適さや一体感、安心感を与えてくれる。そしてもしコンセンサスが間違っていたとしても、少なくとも一緒に嘆き悲しみ慰め合える仲間がいる。しかしこれでは、プロとしてやっていけない。

コンセンサスから外れた意見を持つということは、孤独で孤立した場所に身を置くことである。他人からの慰めは得られず厳しい批判にさらされ、時としてこれでいいのだろうかと不安になる。100%正しいということはあり得ず、データを読み違えるリスクは常に残る。

過去100年超で最悪のパンデミックを乗り切ったばかりの今、再びコロナウイルスをテーマとして取り上げるにはためらいがある。しかし、(2020年2月から3月の私のコメンタリーでそうしたように)あえて悲観的な見解を披露すれば、デルタ変異株に関する足元のデータは非常に気がかりであり、さらに付け加えれば、昨年のデータとよく似ている。

疫学用語である基本再生産数(R0。英語ではアールノートと読む)という概念に詳しい人は多くはないであろう。R0 とは病気の感染力を示す指標であり、集団の中で1人の感染者が他の何人に感染させるかを計測した数字である。ある感染症の R0が1より小さければ、その感染症は終息に向かっている。しかし、 R0 が1より大きければ、感染は拡大する。

2020年初めに感染が拡大したコロナウイルス初期株の R0 は2から3の間であった。これは、1人の感染者が平均して2~3人に感染を拡大させることを意味する。コロナウイルス感染後の潜伏期間が約2週間であることを考慮すると、現在の感染者数に R0 を掛けると潜伏期間終了時点での新規感染者数を予測することができる。例えば、全く免疫を持たない集団においてコロナ初期株新規感染者が5万人いるとすれば、2 週間後の新規感染者数は10万~15万人となる。これはまさしく昨年の感染拡大パターンである。


Video

スコット・マイナード:デルタ変異株が経済やマーケットに及ぼす影響についてCNBCでコメント


ここ数週間のデータを追っていると気になるパターンが浮かび上がってきた。週ごとの感染者絶対数の増加パターンが、昨年夏から秋にかけてコロナ感染者数が急増した時期のパターンと似ているのだ。

人口の約半分がワクチン接種を完了している米国でなぜこのようなことが起きているのか?仮に感染の再拡大が起きているとしても、新規感染者の絶対数は半分になるはずではないのか?現状に懸念を抱いた私は、この分野の複数の専門家に電話をかけ話を聞いてみた。その結果、デルタ変異株の R0 が実は6で、感染力が初期株の2~3倍強いということが分かった。これは、まだワクチン接種を受けていない人の新規感染者数が、今から2週間後には今週の6倍になることを意味している。一方で、全人口の半分は既にワクチン接種済みであるため、デルタ変異株の6という R0 値は実質的には半減される。この結果、感染拡大を抑える新たな措置が取られない限り、今後数カ月の間に初期株のケースとほぼ同数のデルタ変異株新規感染者が発生することになる。

現在の1日当たり平均新規感染者数は約6万人で、ロックダウンのさなかにあった昨年10月と同水準であることを考えると、今後の新規感染者数の推移は昨年秋と驚くほど似通ったものになると予想される。すなわち、今後6~8週間で新規感染者数は20万人を超え、昨年12月のピーク時と同水準になると思われる。

足元の新規感染者数推移は昨年秋~冬によく似ている

Déjà Vu in the Trajectory of COVID Cases

Source: Guggenheim Investments, Bloomberg. Data as of 7.26.2021.

もちろん現在は、感染を抑制するためのさまざまな措置が取られている。また、ワクチン接種済みの人や既にコロナウイルスに感染して抗体を持っている人が再度感染するブレイクスルー感染率はかなり低い。しかし、現状をさらに改善するためにはワクチン接種率を上げる必要がある。

また感染拡大抑制策についても2020年初めと比較すれば多くのことが分かっている中で、今再びマスク着用が義務化されている。米国疾病対策センター(CDC)は7月27日、アリゾナ州、ネバダ州、ユタ州、ワイオミング州など南部や南西部のウイルス感染率が高い州における屋内でのマスク着用を再度推奨した。また、ロサンゼルスやセントルイスなどの都市においても、マスク着用が再び義務化された。ただし残念なことに、こうしてマスク着用が推奨されたのは、それに従う可能性が最も低い地域である。

ワクチン接種率に地域差が見られることから、デルタ変異株感染者数にも地域により差が生じている。ワクチン接種率が低い地域は得てしてアーカンソー州など経済生産への貢献度が低い南部の地域となっているが、こうした地域の新規感染者数増加ペースは、ワクチン接種率が高い地域と比較して速くなっている。

どこに住んでいようと感染者数は増加傾向にある

米国における人口100万人に占める1日当たりの新規感染者数 (7日間移動平均)

U.S. Daily New Cases Per Million People, 7-Day Moving Average

Source: Guggenheim Investments, Bloomberg. Data as of 7.26.2021.

しかし、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州など経済生産への貢献度が高い地域でさえもワクチン接種率は全米平均並みの50%であり、新規感染者数の増加に対して既に警鐘を鳴らしている。例えばフロリダ州の新規感染者数は、ワクチン接種率が50%に達しているにもかかわらず、昨年のピークを超え過去最多となっている。

フロリダ州ではコロナウイルス感染者数が急増

フロリダ州における18歳から39歳の1日当たり新規入院者数(7日間移動平均)

Florida Daily Hospital Admissions Among 18–39 Year-Olds 7-day average

Source: U.S. Department of Health & Human Services. Data as of 7.24.2021.

今回の感染拡大が以前と異なる点は他にもある。政策当局が最も恐れているのは、積極的な感染防止策をさらに導入することにより、昨年3月にリスク資産が暴落しクレジット市場が混乱したときのような本格的な下げ相場に陥ることだ。このため投資家は、必要に応じた財政刺激策や、米連邦準備制度理事会(FRB)によるテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)や金融引き締め策の先送りなど、ワシントンからのさらなる支援を期待するであろう。さらに、パンデミックが始まって以降2兆6000億ドル増加した貯蓄が消費へのバッファーとなるとともに、デルタ変異株の感染拡大がさらに進んだ場合でも、株価の下支え要因となるであろう。

コロナウイルスの感染力を初めて調べ始めた2020年2月、私はデータを見てふるえあがった。しかし、同様に恐ろしかったのは、市場に蔓延した認知的不協和(注:人が自分の中で矛盾する「新しい事実」を突きつけられたときに感じる不快感)であった。人々は、パンデミックのような最悪の事態が起きるとは信じようとしなかった。クレジットスプレッドがタイト化し、リスク資産が限界まで割高に評価される中で、至る所に赤信号がともっていたにもかかわらずである。私がCNBCで警鐘を鳴らしていたときでさえ、S&P500指数は史上最高値を更新した。

2020年冬に見られた認知的不協和は現在のそれとよく似ている。今私たちが直面するリスクは、新規感染者数が再び急増した場合に政策当局が取り得る対応が、迅速に反応してすぐさま経済をロックダウンするか、あるいはすぐには反応せず状況がさらに悪化した時点で経済をロックダウンするかの二つに一つしかないことである。当面の希望の種は、感染防止策のみである。詰まるところ、デルタ変異株の感染爆発が深刻な経済問題に発展することを阻止しようとする反応関数はうまく機能しない恐れがある。

私の予測は間違っているかもしれない。しかし市場が認知的不協和を超えてパニックに陥ったり、あるいは単純にリスク削減に走ったりすると、現在の極端なバリュエーションのもとでリスク資産は問題を抱えることになる。

また、足元でのパンデミック再燃が季節的にリスク資産が値を下げやすい時期に起きていることも気がかりだ。これによりダウンサイドリスクが増幅される。

例年、8月から10月は株式市場のパフォーマンスが最も悪い時期にあたる。直近の経済指標を見ると、新規失業保険申請件数は予想をやや上回った。サービス業PMIなどで示される経済活動も総じて予想を下回り、第2四半期GDPもコンセンサスを下回った。通常であれば、こうしたデータは景気拡大の強さや持続性を考える上で大きな懸念材料とはならない。しかし他のデータと照らし合わせて考えると、これらのデータは経済が緩やかに浸食されていることを示しており、やがては景気減速へとつながりかねない可能性が出てくる。

現在は、デルタ変異株感染拡大の初期段階にあり、経済成長には鈍化の兆しが見られる。すなわち、慎重な投資家がリスクオフの検討を開始するには十分な赤信号がともっている。昨年ほど深刻な結果には至らないとしても、今後数週間から数カ月の間、市場が不確実性の高まりを織り込む過程においてかなりのボラティリティが予想される。コロナ感染拡大が再び経済活動に悪影響を及ぼす可能性が高く、これらを背景としてリスク資産は著しく脆弱になっていると考えられる。

こうした中でよいニュースといえば、例年8月は長期金利が低下傾向にあることだ。弊社は10年米国債の利回りが65ベーシスポイント、あるいはそれ以下にまで低下するという見解を長期にわたり維持してきているが、その可能性は現実味を帯びてきている。

またしても弊社の見解はコンセンサスを外れている。これに対する批判は甘んじて受けよう。しかし弊社は、世論を恐れることよりも重要な義務を顧客に対して負っている。それは正しいと思うことを包み隠さず伝えることである。

詰まるところ、マーケットと経済に関する限りは今「絶好調」である。それならば、今は売り時なのか。

よく知られている感染症の感染防止対策が採られる前の R0

Values of R0 of Well-known Infectious Diseases Prior to Intervention

Source: Guggenheim Investments, Wikipedia.

 

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