FRBが仕掛けるシュガーハイ

リセッションを避けるのに必要なのは利下げではなく、合理的な移民政策です。

2019年7月29日    |    グローバルCIO スコット・マイナード


本記事の編集版はバロンズにて掲載されています。

米連邦公開市場委員会(FOMC)会合を間近に控え、政策当局は通常であれば非伝統的と考えられる政策措置の価値について、議論を行っている。米国経済が潜在成長率を上回る成長を遂げ続け、労働市場も完全雇用の状態で推移しているにもかかわらず、どのような政策措置が適切なのかを巡って非常に大きな国民的議論が沸き起こっている。米連邦準備制度理事会(FRB)が来週取る措置の結果は、我々が考えるよりもはるかに長期にわたってつきまとう可能性があり、最終的には新たな景気後退入りや金融の安定に対するリスク上昇にもつながりかねない。FRBは、(糖分の摂り過ぎで脳が興奮状態になる)シュガーハイ的な状況を作り出す追加の金融政策に乗り出すとみられるが、これは生産の制約と価格の押し下げに働いている人口動態上の大きな圧力によって生じた根本的な構造問題に対処するものとはならない。


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スコット・マイナードがFRBの政策シフトによる投資環境への影響についてCNBCでのパネルディスカッションをリードしています。


FRBが政策に関しては長年データに忠実であったことからも、政策当局は現実味を増す生産の限界が引き起こす景気過熱の可能性を見越して、利下げでなく、追加利上げを検討しなければならないはずである。それなのに、議論の中心となっているのは、予想される景気減速を回避するための予防的措置を講じる必要性なのである。FRBは、大規模かつ急速な利下げについて、その時期や規模に関し、過去1ヶ月、公の場で議論を繰り返してきた。FRB内外の関係者の多くが、米国経済は順調に進んでいるが、同時に景気後退を回避するために先手を打つ必要性があるかもしれないと認識している。

FRBの考え方が突然大きく変わったのは昨年12月、翌日物金利を0.25%引き上げた後で、ジェローム・パウエル議長がさらなる利上げ見通しとバランスシートの「自動操縦」的な縮小を示唆した時だった。こうした動きを受けて市場が動揺したことを重くみたFRBの政策担当者は、今やよく知られる様子見「シフト」を含めた後始末作戦に打ってでたのである。

FRBは、市場を安定させることには十二分に成功したが、世界中の資産価格が上昇した。 S&P 500は以前の損失を回復しただけでなく、今では過去最高を記録している。その後に起きた流動性要因の相場上昇が資産価格を押し上げており、債券、貴金属、エネルギーなどのほか、暗号通貨までもが値上がりしている。

欧州では、インフレ鈍化と経済減速の恐れが、欧州中央銀行(ECB)での議論の中心となってきた。 ECBのマリオ・ドラギ総裁が追加緩和を示唆する中、さらなる利下げが広く予想され量的緩和(QE)の可能性も高まっている。追加金融緩和の予想により、ドイツ10年国債利回りはフランスとオランダ国債利回りとともにマイナスの領域に低下した。

政策立案者たちは長い間、主要経済におけるマイナス金利定着は日本特有の「症状」であると思い込んでいた。今や、この日本病は欧州に広がっており、ユーロ圏のマイナス金利状態が長引くと予想されている。

米国では、金利がほぼゼロに近い状態で同国が景気後退に陥った場合、世界的にみられる利回りのマイナス方向への移行が米国債にも波及するのではとの懸念が高まっている。こうした懸念には十分な根拠があって、FRBは戦後の景気後退に伴う利下げサイクルの間、平均で5.5%短期金利を引き下げてきた。現時点で景気後退入りとなれば、ゼロ金利という金融面の制約を乗り越えるために大規模な資産購入が必要な景気刺激策として求められる可能性があり、その額は5兆ドル近くにのぼると考えられる。そうした政策措置が講じられれば、米国債利回りがマイナスとなるのに時間はかからないだろう。

マイナス金利の世界的な波及から自国を守ろうと、FRBは意図的に米国経済を過熱させて、目標の2%を超えるインフレ率上昇を達成しようとしている。ひとたびインフレ率がある数値(やや漠然としているが、おそらく2.5%)に近づけば、FRBは姿勢を転換し、足元を上回る水準まで金利を引き上げるだろう。ただ、そのような政策変更は、自身のリスクなしには実現しない。

景気サイクルの後半にあたる現時点での追加緩和は、1998年の時と同様に資産価格の上昇につながるだろう。1998年9月から11月にかけ、FRBはアジア危機の間に金利を75ベーシスポイント(bps)引き下げ、テクノロジー株のバブルを引き起こす背景をつくり出した。FRBはその後経済過熱の兆候に対応せざるを得なくなり、利下げからわずか8か月後には方向転換して、短期金利を当時のサイクルで最も高い水準まで引き上げた。その後の展開はというと、ナスダックはバブル領域に達した後、2年も経たないうちに劇的に下落しはじめた。2000年3月のピークから約80%、FRBが利下げを始めたときから36%の損失となった。

FRBの緩和スタンスは当時インターネットバブルを招いた結果となったが、現在のFRBの動きも1998年と同様の資産バブルを引き起こす可能性がある。景気サイクルの現時点での景気刺激策は、一部のリスク資産に資金を注ぎ込み今後数か月のリスクプレミアムをつぶすのと同様の影響をもたらすと思われ、そのしっぺ返しは目に見えている。良い結末は期待できない。

たとえうまくいったとしても、最終的にこの政策を転換するには、インフレを抑えるために短期金利の引き上げが必要になり、これは現在、収益に比べて記録的な負債水準に近い高レバレッジの社債市場に圧力をかけるだろう。将来的に金利が上昇すると大量の格下げとデフォルトが発生する可能性があり、これにより、劇的にクレジットスプレッドが拡大し株価が急落するにつれて、リスク市場がダウンする可能性がある。

パウエル議長は、FRBが全力で対応策を講じ、インフレ期待を引き上げつつ、必要な手段をすべて用いて景気拡大の持続に努めることを明言している。最もあり得るシナリオは、来週のFOMC会合で25bpsの利下げに踏み切った上で、年内に50bpsの追加利下げを1回実施するというものだろう。現在の市場価格は、来年にはさらに多くの利下げが予想されていることを織り込んでいる。インフレ圧力が深刻な問題になりつつあるとFRBが認識しない限り、政策担当者は何としてでも米国の景気拡大を持続させる構えである。
最終的には、FRBが目標を達成し失業率の低下が続くにつれ価格圧力は上昇する。イールドカーブについては、短期金利が再び上昇し始めても、長期金利は低いままである可​​能性が高い。潜在成長率の低さと、平均インフレ率2%へのFRBの継続的なコミットメントに起因する、低すぎる中立金利(緩和でも引締めでもない金利)を考えると、おそらく市場は将来の利上げを一時的なものと見なすだろう。これにより、長期金利が低く抑えられ、QEにより債券の供給が減少し、利回りがさらに低下する可能性がある。FRBが金融政策によって低い中立金利と緩やかな成長を解決することはできない。この本質的な問題をもたらしているのは、潜在成長力を過去50年間よりも低下させている国内の構造変化である。
人口動態が与える影響は非常に大きい。人口の高齢化が深刻な労働力不足を引き起こしているのに加え、(処方鎮痛剤などに含まれるオピオイド中毒によって死亡者数が増加する)オピオイド・クライシスと教育や職業訓練の提供が不十分なことで、熟練労働者の供給も限られている状況である。労働力の質と量を改善するためにもっと多くの手を打たなければならないとことは明白である。

労働者の供給が増えない一方で、若年人口層の急拡大に伴って需要が伸びている状況を踏まえると、実質の中立金利は今後も低水準で推移する可能性が高く、場合によってはマイナスとなることも予想される。このように中立金利が低いため、政策当局がインフレ率の大幅上昇とさらなる金融の不安定化というリスクをとることなしに需要を喚起するのは困難になっている。

正しい政策措置は、迅速に潜在成長力を高めるために供給側の要因に焦点を当てることだ。オピオイド危機による(社会の)荒廃に対処するように、教育と職業訓練は最終的に問題に対処するにあたって長期的な重要課題だが、これらの問題への解決策は、米国が景気後退を回避するのであれば、より時間がかかる。

景気後退とそれに伴うマイナス金利を回避する最も容易な方法は、労働者の供給を大きく増やすことだろう。合理的な移民政策は求人数と就業可能な労働者数との大きなギャップを埋めることにつながって、景気減速のリスクを急速に後退させると思われる。労働者数が200万人増えると、潜在的な生産能力を2%以上引き上げられる可能性が出てくる。そうなれば、経済成長を刺激すると同時に、個人所得の大幅増を受けて米国庫の税収も膨らみ、中立金利が上昇するだろう。

中立金利の低下に関連する現在の問題をFRBの手に委ねることは、将来的に大きなリスクを生み出す可能性が高い。FRBが足元で検討している先回り的で予防的な利下げは、持続不可能な資産価格高騰と金融の一層の不安定化をいずれ招くことになるだろう。そうした事態は、次の景気低迷をより深刻なものにするだけである。米国がこうした路線を維持するのであれば、目先の景気後退とマイナス金利の回避に向けたFRBの対応策は、最終的には事態を悪化させることになると予想する。

 

 

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